この時計は、パテック・ フィリップの
カラトラバ。 ’50年頃のアンティークの
腕時計、Ref.2451
です。 パテック・フィリップでは、丸形のケースとラグが一体感を持つ、このようなベーシックなデザインの丸形時計をカラトラバと
呼びます。
この腕時計は手巻きです。
Ref.2451のムーブメントは、Cal.10-200の前期型。 前期型は、スワンネック型
のマイクロ・レギュレター付きの緩急針を搭載したチラネジテンプを採用しています。
Cal.10-200は、1946年からの、19年の間に、シリアル番号からの推測をすると約20000個生産されました。ちなみに、ラウンドムーブメントでメジャーなCal.12-120は、1935年から1952年まで製造されますが、約24000個製造ですが、やはり数は多くは無いですね(もし、シリアル番号の欠番があると、もっと数は少ないでしょうね)
パテック・フィリップのムーブメントの中では小型の方に分類出来ます。
Cal.10-200は、
その小型さから、応用範囲が広く、丸形のカラトラバのみならず、角形(レクタンギュラーやスクエア)ケースや、左右非対称のケースデザインが特徴の
「アシメントリック」等の腕時計へも採用されたりもしております。
ちなみに、ムーブメントのCal.10-200後期型ではテンプが変更になり、パテック・フィリップが特許を取得している
ジャイロマックス・テンプを搭載します。
Cal.10-200
に限らず、アンティークのパテックフィリップにおいて、一般に「後期型」と呼ばれるムーブメントの面白い点は、本来、ジャイロマックステンプでは、テンプ
の外周にあるC型のパーツを調整することで調速を行うので、調速機構としての緩急針は必要が無いはずなのですが、前期型からの緩急針も世襲して搭載して
いる点にあります。 そんなわけで、Cal.10-200後期型にも緩急針とジャイロマックステンプの2種類の調速機構が搭載されています。
ジャイロマックステンプが導入されたばかりの新技術(いわば発展途上の黎明期)でもあり、ムーブメントに搭載される
他のパーツに関する設計変更(緩急針を取り除く等)まですると、何らかの影響が出る可能性を配慮してのことか? それとも、2つの調速機構でより高度な
調整を計るためか? なぜ、このような調速機構を2種類搭載ということが行われたのでしょうかね?? ジャイロマックステンプが採用されたばかりの時期
ならではの面白い特徴かと思います。
ちなみに、現行品の調速機構は、基本的にはジャイロマックステンプに統一されており、ジャイロマックステンプはパテックフィリップの腕時計シンボル的な
要素ともなっています。
裏蓋を開けない限りは目にすることが滅多に無いムーブメントではありますが、その仕上げの妙は素人目にも十分理解できるほどの美しい
仕上げであります。 裏蓋で隠しているのが勿体ないくらいです。
この、Ref.2451のダイヤルには、シンプルなアプライドのバーインデックスを採用。 しかし、シンプルなバーインデックスと
言えども多面体にカッティングをされた手の込んだ仕上げとなっているところは、さすがに、抜かりがありません。
また、ダイヤル上12時方向にあるメーカーのロゴは、単純なプリントではなく、アンティークのパテック・フィリップにおいて、ときおり見られる
エンボス加工様式の浮き上がった文字となっておりまして、たいへんに手のかかった仕上げとなっています(逆に、文字盤にロゴを彫金して・彫り込んで
インク流し込む
という手法も見られます、いずれにせよ手間の掛かる加工ですね)。
風防はアクリルのドーム型で、アンティークらしい雰囲気を醸し出しています。
ケースは、18Kイエローゴールドのケースです。 半世紀以上前の腕時計ですが、
ケースのエッジも裏蓋のヘアラインもしっかりしており、金無垢の明かしである、「女性(女神)の横顔」のホールマークもしっかりと視認できます。
Ref.2451では、時計内部への埃の進入を防止するダストプルーフ(防塵)仕様を採用しています。
Ref.2451の特徴でもあるダストプルーフ仕様は、スクリューバック式の裏蓋を採用した堅牢なアウターケースと、
さらにムーブメント
を包み込むインナーケースを採用した2重構造のケースとすることで実現されています。
最近の腕時計は、ウォータープルーフ(防水)が当たり前ですが、腕時計が登場して、しばらくの間は、防水はおろか、埃の進入を防ぐ防塵も
試行錯誤にありました。
いかにして時計のムーブメントにとって大敵である埃を防ごうとしたか、当時の工夫が忍ばれる作品です。
Ref.2451は、小型ムーブメントであるCal.10-200を採用することで、防塵の2重構造ケースでありながら、
時計全体のサイズは
大きくなることは無く、カラトラバ・モデルの代表であるRef.96等と同寸のサイズ(30mm程)に収まっています。
でも、デカ厚ブームの昨今からすると、
このサイズは、かなり小さく感じますし、今なら女性が付けても全然違和感は無いですね。
また、Ref.2451のダイヤルのインデックスについては、私の所有しているバーインデックス以外にも、ブレゲ数字やアラビア数字を
採用した物もあり、
ケースに関しては、ピンクゴールドを採用したものもあったりします。 それと、アンティーク・ビンテージのパテック・フィリップの製品では極めて珍しいと
される、
ステンレスのケースを使ったモデルも、Ref.2451では見受けられます(アンティーク・ビンテージのパテック・フィリップのカラトラバで
ステンレスケースは、東西冷戦時における、東側からの特注品ではないか?!なんて話も見受けられます....
とにかく数が数無く謎が多いのがステンレスケースです)。
カラトラバの特徴である、ケース側面からラグにかけての一体化された流れるような曲線、そして無駄のないシンプルでプレーンな
ダイヤル。 絶妙なデザインとバランスの良さは「美しい」の一言につきると言えます。
パテック・フィリップの"作品"は、手をかけられる全てに惜しみなく手をかけて作られており、単なる工業製品で
はなく、まさに美術工芸品と称するのが相応しいものです。